札幌で下宿をしていた頃、下宿のおばちゃんが今晩何が食べたいか聞いて来た。
「久しぶりに豚丼が食べたい」と僕が言うと。
「えっ？豚？牛丼じゃ無くて豚丼？何それ」
出身が帯広の僕にとって豚丼は一般的な家庭料理であり、全国何処でも普通に食べられる物だと思っていた。
同じ下宿内の友達で、函館出身の奴も、旭川出身の奴も、誰も豚丼の事は知らない。唯一芦別出身の奴が、「あっ、あれ美味いよね。帯広の名物だよね。昔、帯広に行った時に食べたよ」
「エッ？帯広名物？じゃなに？札幌では豚丼が食べられない訳か？」
「うん。多分。食堂のメニューで見た事ある？」
「あっそうだ！裏の増味屋食堂に無かったっけ？」
「無いよ、無い無い」と全員が口を揃えて言った。
ハッキリ言ってショックだった。豚丼が帯広だけの物だったとは、今の今迄知らなかった。
そうなると何としても豚丼が食べたくなった。
早速実家に電話をし、レシピを聞き、おばちゃんに言って厨房を借りた。
その日の夕食のメニューは僕が作った豚丼となり、大好評を博した。
こうして札幌にある一軒の下宿屋のメニューに新たに豚丼が加わる事となった。
そう、豚丼をよその地に初めて広めたのは、何を隠そう、この私だったのです。
フッフッフのフ・・・。