加藤が遅刻して来た。 「車のエンジンがかからなくてさ、参ったよ」
「もう買い換えた方が良いんじゃないっすか？」山本が言った。
「いや、バッテリーを換えればまだまだ乗れる」
「結構、ショックとかもへたって来てるし、フロントガラスだって跳ね石でひびが入ってるじゃないっすか」
「いんだよ、車は走れば」
「もっと小さな車にした方が良いんじゃないですか？」女子社員が言った。
「あら、何も知らないんだ」山本が笑いながら言った。
「加藤さんとこって子どもが五人居るんだよ」
「エ～ッツ！そんなに居るんですか！」
「そうなんよ。だからどっか行くんでも、大きな車じゃなきゃなんない訳」
「もしかして、両親とかも一緒に住んでるんですか？」
「ピンポ～ン。両親とおまけに爺さん婆さんが居る」
「・・・それって何人家族ですか？」
「九人家族」
「凄いでしょう。まるで戦後間もない時代の家族構成でしょ。今の少子化問題を一身に背負ってるって感じだよね」と山本が言う。
「九人って野球チームができるじゃないですか。家だって大きいんですよね」
「十二年前に親父と共同で、二世帯住宅を建てたんだ」
「でも生活費って大変じゃないですか？」
「そうだな。でも両親と俺達夫婦四人の収入があるから、家計の方は楽だよ」
「私なんか母と二人暮らしだから、羨ましいですね。そういう大家族って」
「うん、楽しいよ毎日笑いが絶えなくてさ」
それから何日かしての事。
「どうしたんすか？最近元気がないっすね」山本が加藤に言った。
「家族が多過ぎるってのも考えものだな」
「この前は毎日が楽しいって言ってたじゃないっすか」
「それがさ、更に増えたんだ」と溜息まじりの加藤。
「えっ？また奥さんおめでたですか？」
「馬鹿、もう無理だっての。離婚して戻って来てるんだ。妹がさ、子ども四人を引き連れてな」