友達が経営する居酒屋で仲間三人と酒を飲んだ。
「どうだ？良い人見つかったか？」Ａが店主に言った。
「何人か面接には来たけど、難しいな、選ぶのって。だからお前らにも選考を手伝って欲しいんだ」
入り口の暖簾を下ろし、僕ら三人の中に加わって店主が言った。
「取り合えず一人だけ採用しようと思うんだけどな」と言って店主は数枚の履歴書を僕らに見せた。
「あっ、この子良いんじゃない？」Ｂが言った。
「お前、顔で選んでるだろ」と僕が言った。
「居酒屋といえども接客業だからさ」とＢ。
「あっ、でも趣味、好きなもの、特技の欄に花道って書いてあるけど、何だ？はなみちって」とＡ。
「これ華道の事だと思う」と笑いながら店主が言う。
「ああ、華道ね。はな違いだな。でも本当にやってたか怪しいもんだな。普通間違えるか？漢字」とＡ。
次の履歴書を見てＢが言う。
「この履歴書パソコンで綺麗に打ってあるけど、どうなの？履歴書は手書きじゃないの？普通」
「そうなんだ。やっぱり、どういう字を書くのか見たいもんな。字は個性を現すって言うしさ」と店主。
「やっぱり花道が良いんじゃないか？字もそこそこ綺麗だし、丁寧に書いてあるし。後は直接面接したお前が判断したら良いよ」とＢ。
「そうだな。この中じゃ俺も花道が良いと思うな」と僕。
こうして居酒屋の従業員が決定した。採用後の彼女の働きっぷりは素晴らしく、店主も充分に納得するものだった。
ある日の事。店主が店に飾ろうと花を買って来て彼女に生けて欲しいと頼んだ。
「私、お花なんて生けた事ないから・・・」
「えっ？でも趣味にかどうって書いてあったじゃない」
「はなみちって書いたつもりですけど」
「あれって漢字の間違いじゃなかったの？」
「はい、好きなものって欄だったので・・・」
「で、花道って何？」
「桜木花道です。スラムダンクって言うアニメの主人公。知りません？」