ある熱い夏の日、釧路から発泡スチロールに入った小包が届いた。
『鮮魚』と書いたシールが貼ってあったので、荷物を解くと、中には巨大なタラバガニが入っていた。
釧路に住む親父の友人が送って来た物で、家族五人でも多いぐらいの大きさだった。
カニに目の無い僕は、他の家族が帰るのを待ちきれず、足を二本だけつまみ食いすると、残りをそっと冷蔵庫に入れた。
いやしくした為、バチが当たったのか、やがて猛烈な腹痛に襲われた。脂汗が流れる様にしたたり、トイレへと駆け込むが、様態は益々悪化していった。
胃の中が空になる迄吐き続け、立ち上がる気力も無く、トイレ前の廊下に横になっていると、帰宅したお袋が僕の異変に気付いた。
「あらっ！どうしたの？」
「冷蔵庫のカニ、食べない方がいい」と、蚊の鳴く様な声でお袋に伝えた。
衰弱しきった息子を見て、驚いたお袋は、日曜日だった為、その日の当番院を調べると、病院へと僕を運んだ。
注射を打ち、病院のベッドに暫く横になっていると、かなり様態が良くなったので、その日の内に帰宅できる事となった。
帰る際の車中で、カニの足を二本つまみ食いした事を伝えると、二本じゃなくて四本減っていたと言うお袋。
後の二本は誰が食べたのかは直ぐに予想ができた。
家に到着すると、親父が真っ青な顔をして、トイレ前の廊下に横になっていた。