山本が車の運転中、信号待ちをしていると、横に座っている加藤が、建設中のビルのてっぺんにいる豆粒の様に小さく見える人を見て言った。
「凄いな、あんな上で仕事して怖くないのかな？」
「えっ？どこっすか？」
「ほら、あそこのビルの上」
「あれ人っすか？何か考えただけで怖いっすよね。足がすくむって言うか・・・でもカッコ良いっすよね」
「ああ、カッコ良いな。男の仕事っていう感じがするよな。俺もああいう仕事をすれば良かったな～」
「とび職っすか？加藤さんは高い所平気なんすか？」
「全然ダメ。考えただけで下っ腹がムズムズするって言うかさ」
「分かりますよ。それチンさむって言うんすよ」
「ああそうそう。チンさむロードってテレビでやってるよな。あの感じだな」
「お前はどうなの？」
「僕もだダメっすね。でも厳しい見たいですよ。怒鳴られたりするのも当たり前見たいっすからね」
「そりやそうだろ。一歩間違えりゃ大事故だもんな。命懸けの仕事だしな。でもお前の実家って建設屋だろ、まだ時々手伝ってるのか？」
「最近は仕事もあまり無い様ですし、ほとんど現場には行ってないっすね」
「手伝いしてた時は屋根とかに登るんだろ？」
「いえ、本当の雑用しかしないんで」
「何？怖いからか？」
「そうっすね。怖いっす」
「そうだよな怖いよな。あら？おい、あれ良いじゃないか？俺は左だな」
「おっ、良いっすね。でも僕は右が良いっすね」
「そうか？ちょっと足が太くないか？」
「でも、顔は可愛いっすよ」
「あららら、こっちはもっと良いんでない？」
「良いっすね。今日一番のヒットっすね」と山本が言った瞬間、前方に信号待ちの車が止まっていた。急ブレーキをかけて何とか間一髪の所で止まった。
「今のはやばかった・・」と言って山本が溜息をつく。
「俺たち見たいに注意力散漫な人間には危険な仕事は無理って事だな」