会社の印刷機が故障をした。そう言う時に限って、担当者が休みだったりするものだ。
しかし、頼もしい人物が現れた。担当外の社員ではあったが、前にも同じ状態の故障があり、その時に担当者が機械を分解したのを見ていたので、故障箇所は分かるとの事だった。
幸いに予備の部品もあったが、そこへ辿り着く迄には、いくつもの部品を外さなくてはならなかった。
素人目には、部品はどれも同じ様に見える。床に紙を敷き、間違わない様に順番に並べて行った。最初は四人で作業をしていたのだが、仕事が入り一人、二人と抜けて行き、最後は僕と彼の二人きりになった。
組み立てる前に、順番に並べた部品をデジカメで撮る。我ながらの名案だと思った。
写真撮影後、昼時になったので、現場をそのままにして食事に出掛けた。
帰ってみると、印刷機の奥にある物を取り出そうとした誰かが、敷き紙ごと向きを変えていた。
一瞬焦ったが、デジカメの画像を出力し、後は故障箇所を交換して組み立てるだけとなった。
もう彼一人でも出来ると言う事だったので、僕は通常の仕事に戻る事にした。
暫くして彼がやって来た。
「あの～。この写真のデーターってまだありますか？」
「うん？もう出力したから必要ないだろ。消したよ」
「えっ？マジっすか？」
「これって、向きが分からないんですよ。どっちが上でどっちが下なんでしょう」