社員の山本は、毎年今時期になると同じ事を言う。
「当たったら何買おうかな」宝くじの事である。
「進歩が無いね。去年も今年も同じことを言ってるよ」と呆れた顔で言う羽賀。
「良いじゃないっすか。夢ぐらい見たって」
「夢は寝てる時だけにしろ。現実を直視するんだよ」
「相変わらず硬いっすね」
「何だか二人して進歩がないな。去年も同じ会話してるのを聞いたぞ」と加藤。
「そうっすか？そう言う加藤さんだって、今言った事と同じことを去年も言ってたっすよ」山本が言った。
「そうだっけ？じゃあ俺達三人は今年一年進歩が無かったって言う事だな」加藤が笑いながら言った。
「でも、世の中の事をある程度経験してしまうと、何か後はマンネリ化しちゃうって言うか、同じ事の繰り返しっていうか・・・そう考えると、この先の人生も何か容易に予想ができちゃうんですよね」と羽賀が寂しそうに言った。
「お前は随分と冷めた事言うんだね。じゃあ、何か新しい事にチャレンジしたら良いじゃん」と加藤。
「人生に何か刺激を与えれば良んじゃないっすか？」と山本が言った。
「刺激か・・・例えば？」
「そうっすね。奥さんと離婚するとか、会社を辞めるとか・・」
「人生をガラっと変えて見るのも手かも知れんな。今までにやった事の無い事をすれば良いんだ。非日常的な事が良いな。犯罪に手を染めて、悪の道をひたすら走り続けるってのもありかもな」楽しそうに言う加藤。
「その上、命とか狙われたら最高っすよね。毎日がハラハラドキドキものっすよ」と山本も楽しそうに言う。
「ちょっと待てって、何で俺が命を狙われなきゃならないんだよ」と羽賀。その時、部長が帰って来た。
「宝くじ買っちゃった。三十枚買ったから六億だぞ。当たったらお前らにもやるな。十万ずつ」と言って笑う部長を見て女子社員が溜息まじり言った。
「そろいもそろって進歩が無い様ですけど、大丈夫でしょうか？うちの会社」