インドが大好きな友達がいる。彼は二年に一度長期休暇を取ってインドへ行く。インドと言えば人口が十億もいて、ごちゃごちゃして衛生面でも良くないというイメージが僕の中にあった。
「何でインドなんだ？」
「インドって両極端なんだよ。好きになるか嫌いになるかのどっちかなんだ」
「じゃ、何で好きになったんだ？」
「広くて深いところかな」
「それなら中国だっていいだろ。広い上に歴史もある」
「中国の大都市は整備されて近代化してるだろ、でもインドは違うんだよ。ニューデリだって実際その場に居ても舗装されてるんだかどうかも分からない様な道路が沢山あるんだ。野良牛も沢山いてあちこちに糞がころがってて臭かったり、衛生面では確かに悪いんだけど、インドが好きなんだ」
インドが何故好きなのか聞いたつもりだったが、全く答えにはなっていなかった。
「寿司の味を人に教えようとしても教えられないだろ、実際に本人が食べてみるのが一番なんだよ。そして自分なりに好きか嫌いかを判断するしかないんだよ」
「じゃ説明は無理って事か」
「うん、一度行って見るといいよ。旅行者どうしでよく話す事は、インドは自分から行くもんじゃないって事なんだ」
「どう言う事？」
「インドは呼ばれて行くもんなんだよ」
「呼ばれて行く？」
「そう、行きたいと思った時が呼ばれた時なんだ」
ますます意味が分からなくなって来た。
「だからそれだけ奥が深いって事さ。もし行ってはまったら・・・。人によっては日本での生活は難しくなるかも知れないな。実際何人もそんな人を見て来たし」
来月彼は結婚をする。結婚する前に彼女に自分の大好きなインドを見せてやりたいと言った。その後いくら経っても結婚式の案内状が届かないので 変に思っていると、彼から連絡が来て、婚約は解消になったと悲しそうに言った。
「日本は嫌だって。インドにはまったんだ。インドが呼んでるって言ってたから」