羽賀が山本に言った。「今年のゴールデンウィークは何処に行くんだ？」
「函館に行く予定っす」
「去年も行かなかったか？」
「そうっすね」
「何でまた函館な訳？」
「何となくっすかね」
「何となくで行ける様な距離じゃないだろ。あっ、さては女変えたな？去年の彼女と違うんだろ？」
「一緒っすよ」
「じゃ、何で函館なんだよ。何か楽しい事があるんだったら俺にも教えろよ」
「別に特別楽しい事はないっすよ。函館って片道八時間位掛かるじゃないっすか、その間は彼女と二人っきりで居られる訳だし、色々な話もできるじゃないっすか」
「八時間も？二人っきりで会話を続けるの？」
「運転も休みながら行くんで、色々な景色とか見ながらだと、直ぐに着いちゃいますよ。好きな人と一緒だと時間が経つのも早いですしね」
「お前、人前でよくもそんなのろけ話ができるね」
「言わせたのは羽賀さんじゃないっすか」
「私も彼と一緒に函館に行くんですよ」女子社員が話に入って来た。
「何だよ、二人して函館、函館って」
「私は夜景が好きですね。知ってます？日没間近にロープウェイに乗ると、夕日と夜景の両方が楽しめるんですよ」と女子社員。
「知ってる知ってる。ロープウェイからの景色も結構綺麗なんだよね」と山本。
「何だか二人で盛り上がっちゃって面白くないな」
そしてゴールデンウィーク。
「日没間近のこの時間滞が良いんだよ。夕日と夜景の両方を楽しめるからさ。ロープウェイから見る景色も綺麗なもんだろ」
「本当に綺麗だね」と話す男女の声がロープウェイに乗る山本の耳に入って来た。
山頂に着くと、山本は後ろから誰かに声を掛けられた。振り向くと女子社員が彼氏と思える男性と一緒に立っていた。その横を小さな男の子が駆け抜けて行く。
「あれ？健太君？」と山本。
「健太君って、まさか・・」と驚いた様子の女子社員。
「そう、羽賀さんの子」