久し振りに車で出勤した女子社員に山本が言った。
「もうチャリンコ通勤はやめたんだね」
「はい、寒くて自転車じゃもう無理です」
「そうだよね。十一月だもんね。長い間頑張ったよね」
「健康と節約の為ですね。お陰で三キロ痩せましたよ」と笑顔で答える女子社員。
「へエ～そんなに痩せたの」
「それに、季節の変わり目に毎年風邪を引いてたんですけど、今年は大丈夫なんですよ」
「やっぱり適度に体を動かすって大切な事なんだね」
「山本さんも水泳はまだやってるんでしょ？」
「最近は殆ど行ってないかな。週に三回行ってたんだけど、ああいうのって一回さぼるとダメだね。三回が二回になり、一回になって最後は行かなくなっちゃうんだ。でも暇な時はできるだけ行く様にしてるんだけどね。それでも月に二、三回程度かな」
「山本さんはスタイルだって良いじゃないですか」
「いやいや、最近はダメだよ。体のあっちこっちがたるんできちゃってさ」
「誰の体がたるんでるって」加藤が少し突き出た腹をポンと叩きながら言った。
「ほらね、こう言う人が運動をするべきなんですよ」
「確かにね」
「ふん、俺はどうせメタボだよ。山本だって俺ぐらいの歳になったら、こうなるさ」と言って加藤は自分の腹をさすった。
「だけど、どうなんでしょうね？ダイエットの為とか言って、一番長い通勤距離を自転車こいでくる人もいますけど、運動すれば痩せるとは限らないのかも知れませんね」と女子社員。
その時、自転車に乗った男が、三人が見る窓の外を一瞬で通り過ぎる。
「そうだな。あいつの場合、メタボ改善の兆候は、全く見られんな」と加藤。
「高い自転車なんすけどね」
「ガソリン代節約と健康の為とか言ってたけど、まあ、健康の為ってのは良しとして、ガソリン代の元を取るまで何年掛かるんだ？」
「おはようございます」額に汗をたくさんかいた羽賀が出勤して来た。