Ｋの家へ向かう車中で、Ｋはハンドルを握りながら笑って言う。
「そうなんだよ。だからその日は睡眠無し」
「おいおい、笑い事じゃないだろう。死んじゃうぞ、そんな生活してたら」
「だけど、おかしなもんでさ、下手に毎日二時間ちょっと寝るより、全く寝ない方が調子良かったりするんだよね。もうこんな生活が十年以上続いてるよ」
「そりゃハード過ぎるよ。一つでも減らすっていう訳にはいかないもんか？」
「会社を退職してから、バイトを始めて、あと一つ増やさなきゃ生活ができないって思ってさ。そんなんで二つ目を始めて、あと二万あれば少し楽かな？って思うようなって三つ目を始めて、最初は三つで足りてたんだけど、段々と欲が出て来て、もっと欲しいって思う様になって四つになっちゃったんだ」
「それじゃなに？毎年確定申告してるの？」
「そうだよ。申告はちゃんとしてるよ」
「年収ってどれ位あんの？」
「五百万ちょとかな」
「えっ？そんなに？そんなにあんの？」と驚く僕。
「そうだよ。思ったより稼いでるだろ？」と言ってニヤけるＫ。
「そうだけどさ、でもどこか正社員で働けるところを探す気はないのか？」
「ないね。同じ種類の仕事を一日中続けているより、全然違う仕事を四つする方が楽しいんだよ。正確には三種類だけどさ」
「そうだけど、体が心配だよ。奥さんは何も言わないのか？」
「もちろん言うよ。でも俺は今のままが良いんだ。よく、寝なきゃ死ぬって言うだろ？あれって嘘らしいぞ」
「死ぬだろ、寝ないと」
「いや、死ぬ前に死ぬほど眠くなって寝ちゃうらしい」と笑いながら言うＫ。
「でもそんな生活も今の内だけだぞ。年取ったらそんな生活できないぞ」
「それは俺も考えてる」そうＫが言うと同時に、車は真新しいカーポートの中で止まった。助手席の窓からは、一ヶ月前に建ったばかりのＫの家が見えた。