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最終更新日:2024年04月19日
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第326話 「冬囲い①」

 庭にあった雪もきれいに消え去り、だいぶ春らしくなって来た。
そんなポカポカ陽気の中、祖父が庭木に巻いてある冬囲いを外していた。
「今年は去年より早くないか?」
ベランダの窓を開けて様子を見ていた僕は、脚立に登っている祖父に向かって言った。
「いや、雪囲いを外すのは去年より2日遅いんだ」
「へ〜っ、どっかに日付をメモってあるんだ。それに雪囲いじゃなくて冬囲いだろ」
「・・・そうとも言うな」と負けず嫌いな祖父。
「俺ぐらいともなると、ちゃんと書いておかないと忘れるからな」俺ぐらいの意味が良く分らない。
「暇もあるしね」
「そうそう、暇は沢山ある。残りの人生全部が暇だ。時間にしたら、後四十年はあるだろうな」
「四十年って百二十過ぎ迄生きるつもりなんだ」
「そうだ。その位の気構えで生きないと人生張り合いがないだろう。それに歳だ歳だと言ってたら、直ぐに老け込んじまう」
「そりゃそうだ。何事も気が大切だよな」
八十過ぎの年寄りって毎日どういった気持ちで生きているんだろうと時々考える事がある。平均寿命も過ぎているし、はっきり言っていつ死んでもおかしくない年齢な訳だ。
今晩布団に入ったら、明日の朝は来ないかも知れないし、三日後の予定を立てても無駄に終わるかも知れない。いつ死んでもおかしくないとはそう言う事だ。
人生一寸先は闇という様に、全ての人間に言える事ではあるが、若者と年寄りでは年寄りの方がかなり確率が高くなる訳で、その事自体をちゃんと把握できて生きているのだとしたら、凄い事の様に思える。死に対しての恐怖は、年齢と共に和らいで行くものなのか。
「爺ちゃん、脚立が少しぐらついてないか?」と僕が言った瞬間、脚立と一緒に祖父の体がグラグラと揺らぎだした。僕はとっさにベランダから飛び出すと、祖父の体を下から抱え込む様
にしっかりと支えた。
つづく

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