ゴールデンウィークの前日、山本が羽賀に聞いた。
「どっか行くんすか？」
「旭山動物園だってさ」
「めっちゃ混んでそうっすね。覚悟して行かなきゃ」
「そうなんだよ。せっかくの連休だし、家でのんびりと過ごしたいんだけどな」
「奥さんと健太君がどっか行きたいと」
「旭山動物園に決定したから。って言われたよ」
「家族会議を開いたんじゃなくて、決定事項を伝えられただけなんすね」
「うちは何時もそうなんだ」
「家長としての権限は全く無しって事っすね」
「山本君も気をつけたまえ。女っていうのは結婚してから性格が変わるから。更に子どもを産むと別の生物に生まれ変わるんだ」
「僕の彼女もそうっすかね」
「みんな同じさ、結婚前の今は幼虫ってとこかな。出産後に成虫になるんだよ」
「蝶々みたいっすね」
「蝶々なら良いよ。殆ど蛾だから」
「羽賀さんの奥さんはどっちなんすか？」
「俺にそれを言わせるの？」
「どうしてっすか？綺麗で優しそうな奥さんじゃないっすか」
「お前の彼女だってそうじゃないか。美人だし」
「彼女はどっちすかね」
「多分蛾だろうな」
「やっぱそうっすかね」
そして、ゴールデンウィークの何日か目、旭山動物園へ行く当日、羽賀の息子が風邪を引いて熱を出した。
「主役がこれじゃね。天気も悪いし、あんなに楽しみにしてたのに可愛そう」奥さんが残念そうに言った。
「また今度にしようっか」
笑顔で羽賀が言った。奥さんもそれに同意すると、残念がって泣き叫ぶ子どもを二人で懸命に言い聞かせた。
「それにしても、さっきから随分嬉しそうだね。ニヤニヤしちゃって」羽賀の様子を見て奥さんが言った。
「そんな事ないよ」と言う顔もニヤついている。
「言っとくけどゴールデンウィークは、まだ前半だからね」この言葉に急に引きつった羽賀の顔を見て、今度は奥さんがニヤついた。
それを見て羽賀は思った。
やっぱり毒蛾だったと。