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最終更新日:2024年04月19日
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第339話「叔父26」

 叔父は大きく深呼吸しながら言った。
「空気が美味いな。周りには木がたくさんあって、これぞ森林浴ってやつだな」
確かに空気が爽やかで、マイナスイオンも豊富な様だ。キャンプをするなら最高の場所に違いないと思う。
でも今にも熊が出そうな雰囲気。そんな僕の気持ちを察した様に叔父が言った。
「熊なんて臆病な生き物だから、大声を出して威嚇してやりゃ逃げて行くから大丈夫だ。こうしてな」と言って、叔父はとてつもない大声を出した。
「ウオー!ウオー!」と発する大声は、山の谷間で驚くほど大きく反響した。
「凄いね、叔父さん。そりゃ熊も逃げ出すよ」
「だべ~俺がついてりゃ熊だっていちころよ」
釣りの方は、叔父が長年の経験を生かして見つけた場所だけに、釣果はまずまずだった。
釣った魚は必ず持ち帰って食べる。これが叔父のポリシーだ。それは何故か?叔父が言うには、釣りというのは魚にとって生死をかけた戦いで、敗者が勝者に食われるのは自然界に於いては、当然の摂理であって、リリースするなど命懸けで戦った魚に対して失礼だと言うのだ。この辺の叔父のポリシーについては、もし魚と会話ができたら是非とも聞いてみたいところだ。
暫く釣りをしていたら、小便がしたくなった。僕はいったん釣竿を上げると、後ろにある林の中に入った。この時僕は、ちょっと叔父を驚かそうと思い、背を屈めながら木の枝を大きく揺すった。ガサガサという音は谷間に反響して予想以上に大きくなった。直ぐに叔父は気づいてこっちを見たが、身を屈めている僕の姿は叔父からは見えない。叔父は手に持っていた釣竿を放り投げると、後ろも振り向かず一目散に逃げ出した。僕の存在は全く無視である。
70代とは思えぬ速さだった。どうやら臆病なのは熊ではなく、叔父の方だった。
ぽつんと林の中に取り残された僕は、遠ざかる叔父の後姿を呆然と眺めていた。
「ウオー!ウオー!」と繰り返し谷間に響き渡る叔父の声を聞きながら。

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