車に乗ると同時に雨が降り出した。ワイパーを高速にしてもまだ視界が悪い。
「凄い雨だね。これじゃ何処にも行けないね」主人が残念そうに言った。
「そんなことないさ。すぐに止むからね」と運転をしながら笑う玉城さん。
ホテルに到着すると、雨は嘘の様に上がっていた。
車から降りると、吸水性の良い路面が見る見る水を吸い込んでいくのが分る。
私達は『玉泉洞』『首里城』とベタベタの観光をした。
お昼は何時ごろ食べたかと玉城さんに聞かれ、十二時過ぎに羽田のレストランで食べた事を伝えた。
「じゃ、もうそろそろ食事にしましょうか。旦那さんは、山羊は大丈夫？」
「えっ？ヤギ？」不思議な顔をして私の方を見る主人。
「これからヤギ料理を食べに行くのよ」と私が言った。
「ヤギってあの山羊？」
「そう山羊よ。山羊は沖縄じゃ、高級料理なのよ」
「今日はタマタマがあれば良いけどね」と玉城さん。
　ホテルのある国際通リから少し入った所に「さかえ」という山羊料理の専門店がある。
店のドアを開けると、狭い店内はお客でびっしりだったが、カウンターの席が三つだけ空いている。玉城さんが予約を入れてくれていた様だ。ここのお店は、お母さんと娘さんの二人で切り盛りをしている。
「あれ～りっちゃん」と娘さんの方が甲高い声で私の名前を呼んだ。
「結婚したって聞いたからさ、もう来てくれないかと思ってた」と言って手際よく琉球ガラスのコップを三つカウンターに並べた。まずは泡盛で乾杯。その後すぐに山羊の刺身が出て来た。私は何度も食べているが、主人は初めて。
「美味しいね。思ったより癖がなくて、堅めのローストビーフって感じ」ちょっと違うかなと思ったが、まずは気に入ってくれた様だ。
「今日は久し振りに、ゆんたくしようね」と玉城さんに言う私。『ゆんたく』とは沖縄の方言で、おしゃべりを楽しむという意味だ。
「そうだね。積もる話もあるしね」と言って玉城さんは笑った。　　　　つづく