求人君

北海道【札幌・旭川・函館・苫小牧・釧路・帯広】のお仕事探しに求人君
最終更新日:2024年04月12日
最終更新日:2024年04月12日
TOP  > KonなんどうでShow!  > 第367話「律子さん29」

第367話「律子さん29」

 名古屋から来たという仲良し二人組のおばちゃんが、映画で見たジュラシックパークみたいだと興奮しながらあたりを見回している。
「その辺から、今にも恐竜が出てきそうじゃない?」恐竜よりももっと大変な事が起こっていると私は思った。
主人の股間に張り付いたサソリは、主人が動く度に前足の爪と毒針のある尻尾をピクンピクン持ち上げ、威嚇のポーズをとっている。
主人は相変わらず何も知らずにクワズイモの下でペットボトルに入ったジャスミンティーを飲んでいた。
主人の後ろは、確か緩やかな谷になっていたはず、ここで気が付かせた拍子に驚いて転がり落ちてはいけないと思い、私は何気なく主人に近づいて、サソリを払い落とそうとした。その時だった。名古屋のおばちゃんの一人が、年甲斐もなく若い娘の様な声で叫んだ。
「キャ~いやだ!大変!おまたにタランチュラが!」おばちゃんの一言で、刺されても蜂に刺された程度ですむはずだった小さなサソリが、猛毒の巨大なタランチュラへと変貌してしまった。おばちゃんも驚いたのだと思う。初めて見るサソリをタランチュラと言い間違えるなんて。
主人は自分のまたを見ると、猫が威嚇をする時に発する「シャー」という声に似た音を口から発すると、飛び上がる様に後ずさりした。
人間がこんな声を出すのを私は初めて聞いた。虫嫌いの主人にとってタランチュラは究極の虫に違いない。
次の瞬間「ボキ」っという何かが折れる鈍い音がしたのと同時に、隣りに居たはずの荒木ちゃんと一緒に主人の姿が消えていた。
後には、茎の中ほどから折れたクワズイモが、指で弾かれたバネの様にブルブルと揺れ、その根本には、荒木ちゃんの黄色い鼻緒のビーチサンダルの片方と、ジャスミンティーの入ったペットボトルが転がっていた。
大人二人が斜面を転げ落ちる時って結構な地響きがするもんなんだ。妙に冷静ではあるが、なぜか足が前に動かない。
私以外の人達は谷底を覗き、大声で二人に声を掛けていた。 つづく

エリア
カテゴリ
こだわり
雇用形態