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最終更新日:2024年04月25日
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第377話「湯呑茶碗」

 日曜日の朝、というよりほとんど昼近く。
居間に降りて行くと、祖父がお茶を飲んでぼ~っとしていた。
「お早う。それにしても良く寝る奴だな」と言って祖父は立ち上がると、僕にお茶を入れてくれた。
「まだ若いからね。いくらでも寝れるんだ。あれ?親父達は?」
「ショッピングに行った」
「爺ちゃんも一緒に行けば良かったじゃん」
「いや、俺は別に欲しい物もないし」
「どうせ暇なんだろ?」
「暇っちゃ暇だし、忙しいっちゃあ忙しい」と言って残り少ないお茶を全部飲み干すと、湯呑を持って立ち上がった。
流しの角にぶつけたのか手が滑ったのか、湯呑茶碗が豪快な音を立てて粉々になり、床の上に散らばった。祖父はやっちまったと一言いい、しゃがみ込んで小さな破片の中から比較的大きな破片を手に取ると悲しそうに眼を細めた。
「はあ~っ、遂にお前も逝ってしまったか・・」湯呑茶碗ごときでなぜそんなに落ち込むのか僕は聞いた。
「これはな、婆さんと新婚旅行で熱海に行った時に買ったんだ」驚いた僕は何年前の物かを聞いた。
「五十年以上前だな」祖父は悲しそうに言った。
戸棚の硝子戸越しに見える残された祖母の湯呑が、どこか寂し気に戸棚の中で静かに鎮座していた。
「形ある物はいつか壊れるのさ」僕が言った。
「そうだな。湯呑も人間も同じだ。いつかはこの世から去っちまうんだな」
その時、両親が帰って来た。祖父と僕が湯呑茶碗の欠片を掃除しているのを見て、親父が大声で叫んだ。
「あっ、それ俺達が新婚旅行に行った時の夫婦湯呑じゃないか!」流石に親子である。新婚旅行に行って買う物の趣味までも一緒だ。
「これお前のか?それじゃ俺のは?」と言って祖父は戸棚の中を覗き込むと、嬉しそうな顔をして湯呑茶碗を一つ取り出した。祖父は自分の湯呑を大事そうに両手で持つと、父に言った。
「形ある物いつかは壊れる。これは世の常だ。湯呑ごときでぐだぐだ言うな!」

 

 

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