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最終更新日:2024年04月25日
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第421話「大切な物1」

誕生日に何か欲しい物がないか祖父に訊いた。
「欲しい物なんてないよ。老い先短いこの老いぼれを、気遣ってくれるお前のその優しい気持ちだけで充分だ。どこかの誰かさんとは大違いだ」新聞を読んでいる父の方をジロリと見て祖父は言った。
どうやらまた二人は喧嘩したらしい。
何も欲しくないと言うので放っておくと機嫌が悪くなる。何が欲しいかを訊くのは、年に一度の社交辞令みたいなもので、祖父が欲しい物は、僕なりに分かっているつもりだ。何せ分かりやす性格だし。
僕は祖父を車に乗せると、プレゼントを買いに行った。
「どれが良いか分かんないからさ、自分で選んでよ」たくさん並んだ盆栽というのか植木というのか違いがよく分からないが、とにかくそういった物の専門店に祖父を連れて行った。
中には、目玉が飛び出しそうな値段の物もある。半分腐った様な木に苔がこびり付いた物がなぜこの値段?これが侘びとか寂なのか?奥の深い世界なのだろうが、僕には全く理解できない。
「この黒松は良いな」祖父の声が店の奥から聞えて来た。傍に行って値段を見る。
「ははは、こりゃ無理だな。小型車が一台買える」と僕。
「でも、見るだけならタダだもんな」と言って祖父は笑う。
その横に何とか予算内で納まりそうな盆栽があったので、どうかと訊くが、祖父は気に入らない様だ。
「でも、これも結構格好良いんじゃないの?この幹の辺りが、こう・・何ての?カーブが美しいって言うか」
「ほう、なかなかお前も見る目があるな」
「でも爺ちゃんの好みじゃないんだろ?」
「いや、文句は無いが、値段がな・・」僕は店のおやじさんを呼ぶと、ダメもとで値切ってみたら、驚くほどすんなり交渉は成立した。
「俺は幸せ者だな。良い孫に恵まれて」と祖父は嬉しそうに車の中で言った。
「あっ、俺だけじゃないよ。親父も半分出してるからね」
そっか、と祖父は膝の上に置いた盆栽の入った大きな紙製の手提げ袋を見ながら呟く様に言った。 つづく

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