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最終更新日:2024年04月18日
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第431話「にわか紳士」

車の助手席に座ってる祖父がエアコンを見て言った。
「どうやって止めるんだ?」
「何?寒いの?」
「いや、エアコンの匂いが好きじゃないんだ」
「匂い?って」
「エアコン独特の匂いってあるだろ?身体に付いてしまいそうだしな」
「この前は、涼しくて最高だって言ってたろ」
「いや、ダメだ」
良く分からないが、僕はエアコンを止めると車の窓を開けた。
「あっ、髪が乱れるからダメだよ。窓あけたら」
「だって暑いだろう」僕は少しイラついて言った。
「心頭滅却すれば火もまた涼し。昔の人は上手い事を言ったもんだ」
「それって要するに痩せ我慢だろ。熱いもんはいつの時代だって熱いんだよ。それに、どうして今ここで、その痩せ我慢をしなきゃなんないんだよ」
祖父はフフンと鼻で笑うと言った。
「人生たまには痩せ我慢も必要だと思わんか」
「全然思わないね。だいたいこれは俺の車で、爺ちゃんは送ってもらう立場だろ。何で偉そうなんだよ」
「まあ、そう目くじらを立てるなって。暑さは人をイラだたせるもんだ。俺くらいに人生を経験すると、そうそう腹も立たなくなる」
「今日はどうした?何か変なもんでも食った?それに何でそんな格好してんだよ。3ピースに蝶タイってさ。その帽子だって、外歩くわけじゃないんだから必要ないだろう。それに杖だって普段は持ってないのに」
「杖ではない。ステッキだ。この帽子は山高帽という。男子たるもの常に紳士であらねばならん」
「紳士?病院行くだけだろ」
「良いの!俺はいつも形から入るんだ」
やがて車は祖父が通う病院に到着した。
「ありがとう」と言って祖父は車から降りたが、どうも様子が変だ。僕は車から降りると、病院の入り口からそっと中を覗いた。
待合室には、不自然に背筋を伸ばして椅子に座り、見た事もない様な笑顔の祖父が、隣りに座ってる人と会話をしていた。
そこには上品そうな白髪のお婆さんが微笑んでいた。やっぱりか。

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