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最終更新日:2024年04月18日
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第485話「台風の日に」

外出先から戻った僕が玄関のドアを開けようとすると、汗だくになった祖父が自転車でどこからか戻って来た。
「おい、台風が来るぞ」
「そうみたいだね」
「準備はいいのか?」
「なに、準備って」
「大切な物が風で飛ばされんようにせんと」
「大切な物は外に置いてないもん。それより爺ちゃんの盆栽とか避難させた方が良いんじゃない?」
「おお、そうだそうだ、大丈夫だとは思うが、一応な」祖父は盆栽を玄関先の軒下へと移動させた。
「ここなら両側に壁もあるし、風も当たらんから心配ないな」僕も何個か手伝う。
風が少し強くなった様で、庭の紅葉がガサガサと音を立て始めた。
「いよいよだな」祖父が空を見上げた。
どす黒い雲がもの凄い早さで広がりだすと、当たり一面が薄暗くなった。やがてバラバラバラと音がしたかと思うと直ぐにザーッと激しく
雨が降り出した。強い風に煽られて庭の木々が一斉に同じ方向へと葉裏を見せる。
僕らは家に入ると、今度はサンルームから外の状況を観察した。
「おい!あれ見ろ」祖父が指差す方を見ると、暴風雨の中を誰かが必至で自転車を漕いでいた。
男は全身ずぶ濡れで、白地のTシャツが強い向い風と激しく打ち付ける雨によって、ピタッと上半身に張り付き、乳首がクッキリと浮き出
ていた。髪もオールバックで皺くちゃの酷い顔・・・父だった。
祖父は笑いながらバスタオルを手に玄関へと向った。
ドアを開けようとしたが、何かがつっかえている。祖父が力一杯ドアを押すと、ガシャガシャ~ンと大きな音がした。ドアが父のとめた自
転車のタイヤにぶつかり、自転車が倒れたのだ。
その下には、いくつもの割れた鉢が・・。祖父は直ぐにドアを閉めて鍵をかけた。怒りで顔を真っ赤にした祖父は、僕を見て言った。
「少し雨風に当たりたいそうだ」
そんな訳あるはずない。益々激しくなる暴風雨の中、ドアを叩く音とチャイムの音が何度も鳴った。

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