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最終更新日:2024年04月18日
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第496話「囁き」

会社帰りに古本屋へと直行する。ストックしている本が少なくなると暗闇で電池の切れかかった懐中電灯を握りしめている様な心細さを感じる。こうなると読書というよりも毒書といってもいい。
新刊も買うには買うが、何せ高いので、好きな作家か、よほど読みたい作品以外は買わない。
古本屋では、まず百円コーナーで目当ての本を探す。この瞬間が結構ドキドキする。お目当ての本が見つかった時は、思わず叫びたくなるほどの高揚を感じ、さらに新品同様だと至福のひと時を感じる。至って僕は安上りな人間なのである。
この日も百円コーナーで目当ての本が見つかった。しかし高揚感は得られない。表紙はボロボロで中身も色褪せているからだ。
同じタイトルを求め、単行本のコーナーに行く。書棚の中央に新品同様の物が千二百円の値札を付けて偉そうに鎮座している。定価二千円だから充分に安いが、ここで二つの意見が僕の頭の中で対峙する。そして頭の中から早速、囁きが聞こえる。
「読めりゃボロでも良いじ ゃん。千二百円あれば百円 の本が十二冊も買えるぞ」
もう一方も負けじと囁く。
「新品同様の欲しい本が千 二百円で買えるんだぞ」ど うしようか考えながら他の 本をカゴの中に入れている と最終的に十五冊になった。 これだけあれば一ヶ月は持 つ。最後に書棚で鎮座する 本をカゴに入れて清算した。 囁きは後者が勝ったのだ。
外へ出ると、降っていた雪 は雨に変わっていた。
家に着き、車から降りて雨 の中を一気に走り抜けよう と駆け出したその時、持っ ていた袋が急に軽くなった。 と同時に、足元の雪混じり の水溜りが嫌な音を立てて 飛び跳ねた。あっと思った が、勢い余って落ちた物を 踏みつけてしまった。立ち 止まって見下ろすと、水溜 りには本達が無残な姿で冷 たい泥水の中に横たわって おり、書棚で鎮座していた 本は見る影もなく、僕の靴 底で半分ほどのページが踏 みにじられ、裂けていた。
さっきの囁きが聞こえる。
「ほら、百円ので充分だっ たじゃないか」

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