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最終更新日:2024年04月19日
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第513話「律子さん65」

どういう風の吹き回しか、あまり他人を褒めない母がここまで褒めるのは珍しい。
「うちのお隣の奥さん、若いのにしっかりしててね、その上美人だし、今時の若い人には珍しいの。でね、着物を持っ
てないっていうの。これから先、着物の一枚ぐらい持ってなきゃ何かと不自由じゃない。それで、あんたが派手になって着れなくなった着物をあげたらどうかと思ってさ」
「そう、良いよ」去年の暮れに着物を整理していたら、若い頃の着物が何枚か出てきたので、処分しようかとも思ったが、高価な物の為、誰か着てくれる人がいないかと思っていた矢先の事だった。母が着物が好きだったせいか、娘の私もよくローンを組んでは、着物やら帯を買っていた。だが今はもう殆ど着る事もない。
私は少し派手目の小紋三枚と帯を一本、母に渡した。
「この帯、ここに付いてるのプラチナじゃない?高かったでしょ」母はバッグから老眼鏡を取り出すと、質屋のおかみのごとく事細かくチェックしだした。
いくら高価な物でも箪笥の肥やしにするより誰かに喜んでもらった方がずっと良い。
「うん、でももうしないし、ちょっと私には派手だしね」
「それに、この小紋なんか粋じゃない。まだ着れるんじゃないの?」
「もう着ないから良いよ」
それから一週間ほどして母の友達からメールが届いた。
タイトルには「春の会」と書いてある。母は着物好きの友達数名と、季節ごとに年四回着物の会を開いていた。着物の会といっても、ただ着物を着ての食事会だ。
私も若い頃には母と出席していたが、母と同年代の人達とは話が合うはずもなく、自然と出なくなった。その会の様子を写した写真に私がお隣の奥さんにあげたはずの着物を母が着て嬉しそうに笑って写っていたのだ。プラチナの帯もしているが、かなり派手で無理がある。
「何であんたが着てるのよ」私は早速母に電話をした。
「あら、バレた?お隣の奥さんに渡そうと思ったんだけど、もったいなくなっちゃってさ、あんた良い物ばかり持ってるから」   つづく。

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