ゴールデンウィークの１ヶ月前にＡと一緒に飲んだ。
「三年前から家の嫁さんが、家族でハワイに行くって毎月積み立てしててさ、それが今年満期になったんだよ」
「へ～っ、ゴルデンウィークはハワイか、それにしても奥さん頑張ったな」
「そうなんだ、元々旅行が好きだからさ、家族ができたら、みんなで海外に旅行するのが夢だったらしい。でもさ、俺って海外行った事ないからさ、何だか考えただけで緊張するよ」
「パスポートとかはもう取ってあるのか？」
「うん、旅行の手配から何から全部、嫁さんがやってくれたからさ、俺はただ行くだけなんだ」
「あっ、そっか、お前の嫁さんって、旅行代理店で働いてたんだよな」
「うん、手慣れたもんだよ」Ａの奥さんは、とても行動力のある女性で、Ａとの出会いも、Ａの会社が慰安旅行へ行った時に添乗員として同行したのが切っ掛けだった。猛アタックしたのは奥さんの方で、Ａはただ流されるままに結婚に至った。
今回の旅行の段取りもＡから聞いてなるほどと思った。
ゴールデンウィークを１週間後に控えたある日、街中でバッタリとＡに会った。
「もう少しだな、ハワイ」僕が笑って言うと、Ａから意外な応えが返って来た。
「それがさ、ダメになったんだ」元気なくＡが言う。
「事故ちゃってさ、車が壊れちゃった」怪我は無く、Ａの不注意による単独事故だったそうだ。
「車？修理に金が掛かるって事か？」
「修理より、買い替えた方が早いんだよ。もう古いし」
「車はローンで買えば良いだろう」
「ローンは組むけど、月々の返済を少なくするのに、頭金として旅行代金を入れたんだよ」
「奥さんは何て？」
「必要な物だから仕方ないって。子供達は、かなりぐずったけどな。また三年後に行ける様に頑張って貯金するってさ」
「良い奥さんじゃないか」
「そうかな？行けなかった事を本当は恨んでるんじゃないかと思うんだ」
「どうしてだよ」
「前は車のナンバーなんか何番でもいいって言ってたのにさ、今回の車は嫁さんがナンバーを決めたんだ」
「ナンバーを選んだのが何で恨んでるんだ？」
「だって、８８１だもん」
「８８１？・・ハワイか」