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最終更新日:2024年04月19日
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第525話「夏の始まり」

玄関のドアを開けると何やらいい香りがした。
下駄箱の上にある花瓶には、たくさんのバラがさしてある。
今年も夏がやって来た。
「鈴木さんが来たんだね」居間で新聞を読んでる祖父に僕は言った。
「ああ、もうバラが咲く時期なんだな、早いもんだ」
近所に住む鈴木さんのお婆ちゃんは、毎年今頃になると庭に咲いているバラをたくさん持って来てくれる。
我が家は毎年鈴木さんのバラで夏を感じている。
「あの婆さん今年で最後かも知れんって言いながら、ああやって毎年持って来るんだ」
「何でそう言うんだろ?」
「バラは手が掛かるからだろう、婆さんも元気な内は良いが、段々歳を取って身体の自由が利かんくなってきてるんだ。歳を取るとな、去年できた事が今年できないって事が結構あるもんなんだ。年々弱っていってる証拠だよ」祖父が話をしているちょうどその時だった。
「ごめんくださ~い」と明るい声が玄関から聞こえてきた。鈴木さんだ。
「ちょっと、私さ、剪定鋏をどこかに忘れたみたいなんだけどさ、なかったかい?」
僕は玄関から祖父を呼んだ。
「いや、家にはないぞ」
「そっかい、嫌だね最近は物忘れが酷くてさ」
「でも、ややこしいバラの名前はちゃんと覚えてるだろう」と祖父が笑う。
「まあ、好きだからね」
「今日持ってきたバラの名前も全部分かるの?」と僕が訊くと、バラを指さしながら舌を噛みそうな名前を次から次へと言い出した。
「グラハムトーマスに、コルデスジュビリーにピエールドゥロンサールにダブルデライトだね」
「凄いね、まだまだ大丈夫だよ」と僕が驚く。
「そういえばお宅の孫、留学したんだってな」と突然、思い出した様に祖父が言う。
「そうなのよ、ニュージーランドに一年間留学したの」
「どっかアパートとか借りて住んでるのか?」
「何て言ったかな、下宿みたいなの、ほら、民間のお家に住まわせてもらうやつ、あっ!そうそうホームレス」

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