第53話 「マラソン」
健康の為なら命も惜しまないと言うほどの健康オタクであるAは、最近マラソンにはまっているらしい。
何事にも凝り性なAは、ほどほどと言う事を知らない。何事もとことんやり過ぎて、直ぐに飽きてしまう。
ある日の事、午後七時を過ぎた頃だった。玄関のチャイムが鳴った。出てみると、そこには前身ずぶ濡れで、息遣いの激しいAが立っていた。雨が降っているのかと空を見上げたが、満天の星が輝いている。
「どうした?そんなに濡れて・・?汗?汗かそれ」
「そう。走って来た。ここ迄」苦しそうに途切れ途切れの息遣いでAは言った。
Aの自宅から僕の家迄は、二十キロ以上も離れている
「うそ!芽室から?」僕が驚いてそう言うと、Aは息を切らせながら、うんうんと頷いた。とにかく家の中に入れ、シャワーを貸し、僕の未使用のパンツとシャツに着替えると、驚くほどの食欲で夕飯を食べ、ビールを四缶飲み干した。その上、帰りはもう走れないと言うので、僕が家迄送るはめになった。
車の中で僕が心配して言った。
「何事もほどほどにした方が良いぞ。もう若くないんだからさ」
「うん。今日は流石に無理しちゃったな。迷惑掛けてごめん」申し訳なさそうにAは言った。
「かえって健康に悪いぞ」
「健康?健康の為じゃないよ。ダイエットだよ」