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最終更新日:2024年04月19日
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第552話「叔父29」

叔父の家に遊びに行った。
「おい、これ見てみろ!」
叔父は新聞の切り抜きと一緒に宝くじを一枚、僕の前にポンと置いた。
人は驚き過ぎると、意味不明の言葉を発する様だ。
一等が当たっていたのだ。
「げっぴ~、あた、当たらっしゃったのけい、どどど、どうしゅるのだこれ」信じられないほど動揺している自分がそこにいた。
「それって一等だべ?」
「あうあう!」僕の口からは、もう言葉が出ない。
「だけどよく見たら組違いなんだ」叔父の言葉を僕の脳が拒否しているのか、叔父の声が何処か遠くから聞こえて来る感じがした。
再度番号を確認すると確かに組が違う。当選金額は三十万。七億とでは余りにも差があり過ぎるではないか、肩の力がストーンと抜け落ちる。
それはあたかも、高級レストランで「これは当店からのサービスでございます」と言って最高級の国産ステーキを出されて大喜びしていると
「間違いでございました」と取り上げられ、お詫びに小鉢に少しだけ雑炊をサービスされた感じだ。
この金額を決めた人間はどれほど底意地が悪いのか。
「俺もな、最初はフッと気を失いかけてな、組違いって分かってからは、もうガックリよ。三十万でも喜ぶべきなんだろうが、何だか後味が悪いっ
ていうかな、全然嬉しくないんだわ」
そこに叔母が来て言った。
「平和が一番だよ、七億当たったらって、考えただけでぞっとするよ」確かに叔母の言う通りかも知れない。
破天荒な叔父のことだから、何を言い出すか分からない。
三十万の使い道は、九州にいる息子夫婦の所へ遊びに行く為に使うとのこと。
「でな、またお前にチンチロリンとセセリを預かって欲しくてな」チンチロリンは叔父が飼っている秋田犬で、セセリは軍鶏である。
窓の外を見ると、チンチロリンの腹から眼つきの悪いセセリが顔を出していて、いつもと変わらぬ風景がそこにあり、平和そのものだ。
そんな中、叔父と僕は互いに顔を見合わせ、暗くて深い溜息をつくのであった。

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