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最終更新日:2024年04月19日
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第559話「春の匂い」

三月も中を過ぎるとかなり春めいて来るもので、あれだけあった雪山も、日に日に小さくなってきている。
父と二人で玄関横の雪を、日が当たって温まった玄関前のタイルにばら撒いていると、カラカラという音と共に何やら黒い物体が出て来た。
「うん?これって親父の車のキーか?」僕がプラスチック性の物体を拾い上げる。
「おお、やっぱり雪掻きの時に落としたんだな」大雪の夜に落としたことに気付かず、そのまま雪と一緒に雪山の上に捨てたらしい。
父は確かめる様にカーポートにある自分の車目掛けてスイッチを押すが、うんともすんともいわない。
「スペアーで良かったよな」薄っすらと汗ばんだ額を手の甲で拭いながら僕が言う。
「まあな、じゃないと大騒ぎだったな」そんな会話をしていると祖父が出て来た。
「雪割りか?春の匂いがするな。どれどれ俺も」春の気配ではなく匂い?これも祖父特有の感性の様だ。
「三人もいらないな」と僕が家に入ろうとすると。
「いや、俺が上がる」と父。
「親父こそ運動不足だろ」
「お前は年寄りをいたわることを知らんのか」
「都合の良い時ばっか年寄りぶるんじゃねえよ」
「まあまあ親子喧嘩は犬も食わんって言うぞ」と祖父。
「それを言うなら夫婦喧嘩だろ」と父が笑う。
「そうとも言うな」と祖父が雪を撒いてると、また何か固い物が落ちる音がした。
「あ~っ、忘れてた!」と叫ぶ祖父の足元をビールがコロコロと転がる。
大雪の夜、雪掻きの後に皆で飲もうと祖父が冷やしておいたらしい。それも六本も。
触ると冷たい。思わず喉がゴクリと鳴る。
「どれどれ」と僕。
「どれどれ」と父。
「どれどれ」と祖父。
身体を動かした後に晴天の下で飲むビールは格別だ。
その時、母が出て来た。
「あんた達何してるの?」怒られると思い、三人が肩を竦めると母が言った。
「私のは無いの?」
「どうぞどうぞ」と祖父が母にビールを渡す。
僕等四人は、春の匂いをつまみに乾杯をした。

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