山本は、社内の窓からよく晴れ渡った青空を眺めると、羽賀に言った。
「春っすね～。僕も自転車買おうかと思うんっすよ」
「そっか、やっと自転車の良さがお前にも分かったか」
「良さ？まあ、運動にもなるし、近場へ行く時も何かと便利っすからね」
「遠くへ行く時も便利だぞ」
「いえ、不便っす。断然車の方が良いっす」
「俺みたく通勤に使えよ。健康的だしさ、そうすれば自転車の良さも分かる」
「でも、帰りに雨が降ったら困りますよね」
「いつもカッパを持ち歩けば問題ない」
「そこまではちょっと」
「じゃ、いつ乗るんだよ」
「休みの日とかに、ちょっと彼女とサイクリングするのも楽しいかなって」
「まあ、それも良いかもな、よし、俺がお勧めの自転車を教えてやるよ」
「羽賀さんのはロードバイクで本格的なやつっすよね。ツールド何とかに使う様な」
「そうだよ、予算１５万は覚悟しておいた方がいいな」
「いやいや、ママチャリで充分すよ。その辺のホームセンターで２万も出せば良いのが買えそうですもん」
「そりゃそうだけど、どうせならもっと上のを買えよ」
「そこは羽賀さんと僕の価値観の違いなんでしょうね」
次の週の月曜日。
「自転車買ったのか？」羽賀が山本に訊いた。
「はい、かなり予算オーバーしたけど買いましたよ」
「そっか、やっぱママチャリはダメだろう？」
「はい、色々見たんすけど、やっぱ良いのは高いっすね」
「そうだな、で、いくらの買ったんだ？」
「羽賀さんが言ってた値段より安かったっんすけど、それでも９万ちょっとかな」
「最初はそんなんで充分だよ。格好良いか？」
「う～ん、機能重視っすね。彼女の家が高台にあるんで」
「ロードバイクなら坂道も楽勝だ。今度ツーリングでも行こう」自転車仲間が増えた事に大喜びする羽賀。
「ちょっと待って下さいよ。何か勘違いしてません？僕のはロードバイクじゃないっすよ。電動自転車っすから」