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最終更新日:2024年04月19日
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第594話「律子さん82」

私の好きなシュークリームの入った箱を食卓の上に置くと、母は言った。
「何よ、あんたまだ怒ってるの?」先週、母につかれた嘘で私の怒りの炎は、まだ少しくすぶり続けていた。
「そんなに怒る事じゃないでしょ。あんたがいつも別れればいいっていうからさ、それにしても、お父さんったらタイミング良かったよね~」と笑い出す母。
「お母さんがいつもお父さんの愚痴ばかり言ってるから、私だって面倒くさくなるの!だからってあんな嘘つくなんて最低!」
「だって、愚痴をこぼす場所ったら、ここぐらいしかないじゃないの。少しぐらいは大目に見てよ」とシュークリームの箱を開けながら母は猫なで声を出す。
私は猫舌の母に、ぬるめのお茶をドンと置いた。
「過ぎた事にいつまでも拘ってるんじゃないの!」
「あんたがそういうこと言う?」私の中でくすぶっていた怒りの炎が再発火する。
「だからこうして、お詫びに来てるんじゃない。でも私、嬉しかったよ。お父さんと離婚したら、私をここに置いてくれるって言ってくれた時は」強引にそう言わせた癖に。
「もう一個だけ食べようかな?お茶をもう一杯入れて貰える?」
私は母から湯飲みを受け取ると台所へと向かった。
「でもさ、あの時のあんたの慌てぶりったら・・・・」再び母は笑い出した。
私の怒りの炎が、再びメラメラと燃え出す。
私はいったん水で冷ました湯飲みにお茶を入れると、今度は跳ねない様にそっと置いた。
母はお茶を口に入れたとたん、熱さで驚きのあまり、目を白黒させながらどうしたらよいか分からない様で、ハフハフしだした。
それを見た私が笑い出す。
何とかお茶を飲み込んだ母は、がばっと立ち上がると、鬼の様な形相で叫んだ。
「熱いじゃにゃ~の!猫舌らって知ってるくせに!江戸の敵は長崎で討つってか!」
古くさい言葉と呂律が回らない母の口調が可笑しくて、私の笑う声が部屋中に響き渡ると共に怒りの炎も、ようやく終息に向かった。

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