元気だけが取り柄なはずの祖父の体調が、最近すぐれないらしい。
「あら食欲ないの？風邪でもひいた？」夕食時に母が祖父の顔をまじまじと見る。
「昨日から少し身体がだるい感じがしてな」と祖父。
「一昨日、佐藤さんと釣りに行って風邪ひいたんでない？薬あげるかい？」と母。
「近くの川だしな、ちゃんと寒くない格好してたから風邪なんてひくと思えんな」
「釣り？カラオケじゃなかったのか？」と父。
「釣りの後にカラオケ行ったんだ・・・あっ、あの時食ったピザか？いや～そんな事ないな。きっとあれだな、何が原因とかでなくて、こうやって段々と身体が弱っていくんだな。俺もそろそろかな？」
それを聞いた父が、笑いながら言う。
「出たよ。俺もそろそろが」
「日曜日は健太が来てただろ？月曜日は何してた？」と僕が祖父に訊く。
「朝から阿部の婆さんの家で麻雀してたな。昼に皆で回転寿司食った後、一杯やりながら夕方まで麻雀の続きやってたな」
「じゃ、火曜日は？」
「だから釣りだよ。その後、麻雀の時のメンバーでカラオケ行ったんだ。盛り上がっちゃって、三回も延長してな、皆で結構飲んだな～」
「じゃ、昨日は？」
「昨日は久保の爺さんのとこで、ワインを貰ったとかで、お呼びがかかってな、知ってるか？ワインにチーズが良く合うんだ。カモンベイビーチーズってのがあってな、これが美味いんだ」
「それ、カマンベールチーズね。で、今日は？」
「今日は、太田の爺さんとこで花札をやっとった。少しだけ飲んだかな。その後、裏の源造のとこで、寒かったもんだから熱燗を少々な」
僕ら親子三人は呆れた顔で祖父を見る。これだけの暴飲暴食を続ければ体調を崩すのは当然だ。しかし本人は全く自覚がない様だ。
「俺が今いった事だけで調子悪い原因が分かるのか？」
「・・・爺ちゃんバカなのか？」僕の呟きに、母が眉根を寄せると父に言った。
「どうやら、あんたの父親に付ける薬は無さそうだね」
「ああ、俺も今そう思った」