毎年、元旦の夕方に、お隣りさんの源じいは、娘と孫の健太と三人で、幻と呼ばれる酒を携えて新年の挨拶にやって来る。
今年も例年通りの挨拶をそれぞれが交わす。
源じいは「而今」という酒を持って来た。
「今年はジコンか」と祖父。
「知ってるの？」と僕。
「知らん。毎年美味いから、今年のも美味いんだろう。　確かジコンっていう武将が居たな、そこから取った名前かな？」
「それ、サコンだろ島左近」
「さやかがサイコンして名前が変わったんだ」と健太。
「沙也加が再婚？神田じゃなくなったのか？」と僕。
「再婚したのは、さやかのおっかさんだ」と源じい。
「おっかさん？松田聖子？」
「さやかは新しいパパ大嫌いなんだって」
「何だ、保育園の子の事か」
「ちょっと誰か、お鍋するからガス出して頂戴」と台所で叫ぶ母の声に父が反応して納戸の方からカセットボンベを持って来る。
「ごめん、ガスコンロの方」
「お神酒上げてから飲むとするか」と嬉しそうな祖父。
「健太～ちょっとこれ運んで～」と台所で叫ぶのは母の手伝いをするユリちゃん。
健太の母親である。
「あっ、ボンベが入ってない、仕舞っちゃったぞ」
「は～い、どいて下さ～い、お料理が通りますよ～」と健太が料理の入った大皿を運んでいる。
祖父が神棚の下で柏手を打つのを見て健太が驚く。
「神社？神社があるのか？」
「健太もお参りするか？」
「ガラガラないじゃん」
「このガス缶、合わないぞ」
「健太～これもお願～い」
「これって、ヘアスプレーの缶だよ。ヘッドはどこ行った？外れてると紛らわしいよな」と僕が笑う。
「こら健太！ダメでしょ！つまみ食いしないの！」
「熱燗か？」
「イヤイヤまずは冷だべ」
「早く食べよ～」と健太。
「ハイハイ、食べようね。みんな席について～爺ちゃん、乾杯しよう」
「よし、みんないいか～、今年もよろしく～乾杯～」
また今年も何やら騒々しい一年が始まった。