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最終更新日:2024年04月26日
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第114話 「3年越しの初任給④」

病院に着くと、父が居た。三年振りに会った父は少し痩せ、白髪も増えていた。
「母さん仕事の帰りに車に引かれたんだ。俺の稼ぎが減ったんで、経費節約だとか言って、先月から自転車で通勤してたんだ」
家族の筈なのに、同じ家に住んでいるのに、僕は何も知らなかった。母さんがそこ迄して家計を切り詰めていたなんて、夢にも思わなかった。自分自身が情けなかった。家族が苦しんでいる時に何もしてやれなかった自分を恥じた。
ベッドに横たわる母の顔には白い布が被せてあった。
「母さん引かれた時、まだ少し意識があって、警察の人に連絡する様に頼んだそうだ」そう言って、父は母の携帯を僕に渡した。開くと、壁紙に「主人」「息子」と言う大きな文字で書かれたショートカットが目についた。「息子」を選択すると僕の電話番号が出て来た。最後の履歴は、僕が母からの電話を無視した時間だった。「ご免なさい・・・」
胸の奥が、カッと熱くなり、大粒の涙が止めど無く流れ落ちた。腹の底から自分でも信じられない程の大声を出し、僕は子どもの様に泣きじゃくった。母が死んだ全ての原因は自分にある。今この場で自分自身を消してしまいたいと思った。
母が煙になって空へ昇った日、父が僕に言った。「もういんじゃないか?」
僕は黙って頷くと、両手の拳を堅く握り締めた。この父の言葉には全ての意味が込められていた。
母が死んで二ケ月程が過ぎ、僕が就職する為の面接日がやって来た。それは僕が三年前に一週間で辞めた会社だった。僕の時計は三年前に退職した時に止まっている。もう一度そこから始めないと前へ進めない気がした。
面接は社長が直々にしてくれた。僕は退職してから、ずっと引きこもりになった事。母が死んだ事。全てを話し、三年前の自分の我がままを土下座して詫びた。
社長室のカーペットは僕の涙で所々染みになった。それが僕なりのけじめのつけ方だった。面接の結果は問題じゃなかった。

つづく

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