山本が愚痴をこぼした。
「一生懸命働いても、何か報われないっすね」
「どうした？そうそう上手く行かないのが、世の常ってもんだ」と羽賀。
「自分の思う様に何でも事が運べば、きっと人生も楽しいだろうにな」
「人生は上手く行かないから楽しいんだろ。最初から全てが出来レースじゃつまらんだろ」
「粗にして野だが卑ではないって言葉知ってるか？」
「石田礼助の言葉っすよね」
「おっ、知ってるじゃん」
「まあ、一応は文学部出てますし、本も読みましたから・・・。粗末な暮らしをして野人の様に働いているが、決して卑屈にはならないって意味っすよね」
「そ、その通り」全ての事を先に言われ動揺する羽賀。
「でもあの人って、国鉄の五代総裁になりましたけど、元々は三井物産の社長っすからね。財産は充分に持ってましたから、国鉄総裁になってからの給料を全部返納したって、別にどうって事なかったんじゃないかな。国会の答弁でも議員の先生方に向かって、諸君なんて言ったり、かなり豪傑で、魅力的な人っすけどね。でも、金持ちがあんな言葉残したって説得力に欠けると思うんすけどね」
「でも、今は天下りやら渡りやらで、何億も退職金貰ったりしてる奴らも居るだろ、それに比べてたら潔いって言うか、格好良いだろ」
「人は世につれ、世は人につれって言う事っすよ。その当時は、たまたま天下りとかが無かった時代っすから。もし今の時代に石田礼助が居たら、分かりませんよ。天下ってたかも知れないっすよ」
「そ、そっか？」押されっぱなしの羽賀。
「それより、豊にして楽だが慢心ではないって言う方が良いっすよね。働けど働けど粗末な生活ってやりきれないっすよね。楽して金が手に入った方が良くないっすか？それでいて金持ちを鼻にかけない。どっすか？こっちの方が良いでしょ？それじゃ退社時間も過ぎたので、楽して稼いで来ます」
「何だそれ？」
「パチンコっすよ」