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最終更新日:2024年04月26日
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第221話 「思い出の地」

ある日曜日の朝、新聞を取りに玄関へ行くと、大きな声が外から聞こえて来た。
何事かと思い、ドアを開けると、隣りの奥さんと旦那さんが、お婆ちゃんと言い合いをしていた。
隣りの家に、お婆ちゃんは居ない。
「どうしたの?」
僕が隣りの奥さんに声を掛けた。
「私も訳が分からないの」
困惑しきった様子で奥さんは、こう言った。
「勝手に人の物を盗みやがって!」
お婆ちゃんは興奮し、物凄い剣幕でまくし立てる様に言った。
「お前もそうだ」と今度は僕の方を見て言った。
「だいたい何時からお前らは、この土地に住んでるんだ!お前も、お前も、この辺ぜ~んぶだ。みんな泥棒じゃないか!ここは畑だったんだ。私が死んだ爺さんと二人で少しづつ大きくして来たのに・・それをお前達が勝手に家なんぞ立てて、これじゃ私は、死んだ爺さんに顔向け出来ない・・・」と言って泣き出した。
その時お婆ちゃんの首から、何かぶら下がっているのが見えた。
「あっ、おばあちゃん。首にぶら下げてる物は何だろうね。ちょっと見せて貰えるかな?」
僕は子どもをあやす様に言うと、意外と素直に見せてくれた。思った通り、名前と連絡先の書いた札が紐の先に付いていた。
早速連絡すると、息子夫婦が車で飛んで来た。
「誰だお前ら、お前らも仲間だな!」
息子夫婦さえも分からない様だった。
「カズヒロが心配して待ってるから早く帰ろう」と息子が言うと、態度が一変し、とても嬉しそうな顔をして頷くと、自分から車に乗り込んだ。孫の名前だと思う。
「本当にご迷惑を掛けて申し訳ありません」
息子夫婦は深々と頭を下げて言った。
確かに僕が住んでいる土地一帯は昔、お婆ちゃんの畑だったそうだ。その頃の思い出が時々蘇り、この日の行動に繋がった様だった。
お婆ちゃんにとって、夫婦で畑仕事をしていた頃が一番幸せな時期だったのだろう。時代の流れとはいえ、お婆ちゃんの思い出を壊した者の一人として、少し心が痛んだ。

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