会社に来客があり、加藤が対応した。互いに名刺交換をする。
札幌からの来客で、三十代前半と思える山田さんと、それより少し年配の薄井さんの二人。加藤も電話ではよく話している相手だったが、今迄に面識はなかった。それにしてもこの二人、声が似ている。
「暑いですね。帯広は今時期こんなに暑くなるんですか？」薄井さんが言った。
「昨日迄はずっと肌寒い日が続いてたんですけど、今日は何だか暑いですね」来客二人を応接室に通すと加藤が言った。
「私も帯広に五年程住んで居た事があるんですが、夏は暑くて冬は寒い所ですもんね」と山田さん。
「夏暑くて冬寒いって当たり前のことじゃないの」薄井さんが山田さんに言った。
「凄く暑くて凄く寒いって事ですよね」笑いながら何故かフォローする加藤。
「ああ、そう言うことでしたか」と笑う薄井さん。
「私は出張でよく釧路へ行くんですが、帯広は初めて来たんですよ」と薄井さん。
「帯広は良い所ですよ。空気も良いし、何って言っても食べ物が美味しいですから」と山田さん。
「空気が美味しいって、それって田舎って言ってる事じゃない」と薄井さん。
「そう言う意味じゃなくて」
「まあ、確かに釧路よりは田舎ですから気にしなくても良いんですよ」と加藤。
「そうですよね。釧路の方が人口も多いし、街並みを見ても都会って感じがしますよね」と薄井さん。
「帯広の街並みを見た事もないのに、よくそんな事言いますね」と山田さん。
「お二人は仲が良くないんですか？」と冗談っぽく笑いながらではあるが、いい加減にしてくれといった感じで加藤が言った。
「いやいや、そんな事ないんですよ。じゃ、本題に入りましょうか」と薄井さん。
互いに話しを進めて行き、後半にさし掛かったところで薄井さんが言った。
「あの・・・。勘違いしてる様ですが、私は山田なんですけど・・・。もしかして見掛けで判断してませんか？確かに髪の毛は薄いですけどね」