加藤が三日間の予定で苫小牧支店へ出張に行った。
「今日は、本社から加藤さんも来ていることですし、久し振りにみんなで食事にでも行きましょうか」支店長が言った。
「加藤さんは何が食べたいですか？」
「何でも良いですよ」
「そう言うのが一番困ります。今日の帰り迄に考えておいて下さい」そう言って支店長は出掛けて行った。
「相変わらず支店長って取っ付き難いな」隣りの席に座っている女子社員に加藤が言った。
「そうですか？あれで結構面白いんですよ」と笑いながら言う女子社員。
「そうなの？」
「確かにぶっきらぼうなところもありますけど、一日もすれば慣れますよ」
「何を食べたいか考えとけって言われてもさ」
「居酒屋とかが無難なんじゃないですか？」
「そうだね。居酒屋だな」
その晩の居酒屋で、加藤は女子社員の言う通リ支店長のファンになった。次の日、最後まで会社に残った加藤に支店長が言った。
「仕事が終わったら何か食べに行きましょうか」
「いえ、今日はいいです」
「昨日はちょっと、はじけ過ぎましたね。平日なのに、居酒屋の後でスナック二軒はやり過ぎでした。今日は食事だけにしましょう」
「でも楽しかったですね」
「そう言って頂ければ私も嬉しく思います。今日はファミレスなんてどうです？」
加藤は承諾すると、支店長は、得意先に一軒寄ってから行くという事で、現地で待ち合わせする事になった。
「ＣＯＣＯ壱番ってカレー屋だろ？ファミレスって言ってたけど・・」
そう加藤は独り言を言いながら店に入った。少ししてから電話が来た。支店長からだった。
「まだ仕事ですか？」
「いえ、もう先に来てます」
「えっ？何処に居るんですか？私もとっくに到着してるんですけど・・」
そう聞いて加藤は店内を見渡したが、支店長の姿は見えない。不安になった加藤は、もう一度店の名前を聞いた。
「私はＣＯＣＯ’Ｓって言ったんですよ」