第334話 「マーちゃん23」
マーちゃんの言い分は、こうだ。
「二年前の事を忘れたんですか?大渋滞にあい、途中で引き返した事を。この時期に行くと、また同じ轍を踏む事になりますよ」
「そっか、そんな事あったな。じゃ、何処が良い?」
「無理をしなくても結構です。僕は僕。お父さんはお父さん。これからはお互い干渉しないで生きて行きましょう」
「そんな事言うなよ。親子じゃないか」
「今後は形式上の親子です。今回のゴールデンウィークでお父さんの僕に対しての愛情度が良く分りました」
いつも素直なマーちゃんが、今回は全く折れようとしない。そればかりか、目にも涙をいっぱい溜めている。
ここまでと判断した僕は、父親が仕事だった事をマーちゃんに打ち明けた。
「何でパチンコだなんて嘘をついたんですか!」涙で顔がぐちゃぐちゃだった。
「前もって約束をして、守れなくなったら可愛そうだからって思ったんだよ」と僕が言った。
「・・・そうだったんですか。ちゃんと僕の事を考えていてくれたんですね」
「当たり前だろ。俺の大事な一人息子だもんな」
「そんな事も知らないで勝手な事を言ってご免なさい」と言ってマーちゃんは泣きながら父親の胸に飛び込んだ。
友達はマーちゃんの顔をゆっくり起こすと、両手の親指の腹で目元の涙を拭い取りながら顔を覗き込む様にして言った。
「何処に行きたい?」
「旭山動物園に行きたいです」鼻水をズルズルすすりながらマーちゃんは言った。
「だって、混んでるから無理だって・・」
「良い方法があります。旭川まで何時間ですか?」
「そうだな、四時間も見とけば良いかな?」
「今日の夜に出掛けて旭山動物園の近くで開園まで車の中で寝るんです」
「おお、それ良いかも」二人で大いに盛り上がる。和解が成立した瞬間でもある。
そこに水を差す様で悪いが、あえて僕は言った。
「そう言えばさ、明日は学校じゃないか?三十日だぞ」