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最終更新日:2024年04月26日
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第369話「律子さん31」

 あけぼの館の裏は低い雑草が一面に生い茂っている。
一見すると手入れの行き届いた芝生を思わせる。更に海側に行くと木製の小さな階段があり、そこを降りると、通称あけのビーチと呼
ばれている場所に出る。
ビーチにあるモンパの木には、ハンモッグが吊るされていて、古くなると民宿のお客さんが誰に言われた訳でもなく取り換える。そう
して、もう十年以上もここに吊るされている。私はハンモッグの上で横になると、持っていた文庫本を開いた。
時折モンパの葉の間から差し込む光は、日焼け止めを塗った私の右腕をジリジリと焦がした。砂浜を洗うさざ波の音は静かで、ヒーリ
ングミュージックを聞いている様だ。海を見ると遥か沖の方で主人がシュノーケリングを楽しんでいる。
私がいつの間にか、うとうと眠りの淵をさまよい出そうとしていた時、名古屋のおばちゃんの声がした。名前は安達さんという。サソ
リとタランチュラを間違えたおばさんだ。
「宮西さんは?」私はもう一人の細いおばさんの名前を言うと、安達さんは海の方を指差した。シュノーケリングをしていた宮西さん
は、こっちに気付いた様で、海面から顔を出して大きく両手を振っていた。
「あんなにはしゃいじゃって大丈夫かしらね」
「楽しそうじゃないですか」
「でも余り無理しゃダメなのよ」私は何か持病でもあるのかと聞いた。
「癌なの。もう長くはないのよ」安達さんは、シュノーケリングを楽しんでいる幼馴染を見て言った。
西表には昔、二人で大学の卒業旅行で来た事があって、その時にまた来ようと約束していたらしい。
「もっと早くに来ていたらね。来ようと思ったらいつだって来れたのにね」その時、間の抜けた声がした。
「泳がへんの?」荒木ちゃんだ。そして荒木ちゃんは急に海の方を見て言った。
「やばいんちゃう?」荒木ちゃんの目線を追うと、宮西さんがバシャバシャと水飛沫を上げて溺れていた。
それを見て私は叫んだ。
「荒木!行け!」 つづく

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