得意先から戻った山本が羽賀に言った。
「春っすね。ポカポカっす」
「そうだな」
「羽賀さんは春が好きっすか？」
「そうだな」
「いやいや、会話になってないでしょう」
「そっか？」
「そうっすよ。何か考え事でもしてるんすか？」
「考え事っていうよりも悩み事だな」
「何か重大な悩みっすか？」
「そうだな、かなり深刻だな」眉間に皺を寄せる羽賀。
「そっすか、僕にできることなら何でも相談に乗りますよ」
「お前に相談してもな・・」
「あれ？僕を見くびらないで下さいよ。こう見えてもいざとなったら、頼れる男なんすよ。お金以外では」
「金じゃないんだよね」
「僕にできる事っすか？」
「どうだろうな？でも山本君に迷惑掛けられないしな」
「あらら、ちよっと羽賀さん。水臭いじゃないっすか、僕と羽賀さんの仲じゃないっすか。僕にできる事は何でも言って下さいよ。あっ、まさか奥さんに浮気がばれたとか？」
「俺がそんなことするわけないだろう」
「そうっすよね。奥さん一筋っすもんね。で、なんすか？悩みって」
「好奇心旺盛なんだな」
「そんな、好奇心だなんて、僕はただ羽賀さんの事が純粋に心配なだけっすよ」
「聞いたら後悔するかもよ」
「しないっすよ。羽賀さんの為になる事なら喜んで」
「じゃ、聞いて貰おうっかな。後戻りはできないぞ」
「ドンと来て下さい」
「ほら、もうすぐ昼時だろ、皆で○○亭のカツ丼が食べたいって事になったんだけど、あそこって出前してくんないからさ」羽賀がここまで言うと山本はガクっと首をうなだれて言った。
「・・・なるほど、それを僕に取って来いって事っすね・・・ハメましたね」
「ジャンケンで負けた俺の悩みを解決してくれてありがとう。これ、皆から預かったお金。山本君の分もちゃんと頼んであるからね。
その分は自分で足して払ってね。じゃ、行ってらっしゃい」