久しぶりに叔父の家へ行くと、秋田犬のチンチロリンが尾っぽを振って迎えてくれたが、何故か少し元気がない。歳の
せいだろうか。この妙な名前は、叔母が知人から子犬を貰った時に、叔父がチンチロリンをしていたから付いた名前だ。
僕がチンチロリンの頭を撫でていると犬小屋の中からニワトリが首を前後に揺らしながらお決まりのポーズで出て来た。突拍子もない出来事に僕が驚いていると、叔父が玄関から出て来た。
「何でニワトリがいるの？」何でと叔父に訊くのは野暮だと分かってはいるが、あえて訊かずにはいられない。
「うちのペットだ。まだ若鳥だけど、最近卵を生むようになってな、おかげで新鮮な卵が食べられる。名前はササミってんだ。チンチロリンとは仲が良くて、毎日一緒に寝てるんだ。時々チンチロリンの背中に乗っかって番兵してるよ」
叔父の名前の付け方に対して今更どうこう言うつもりはないが、ペットと言いながらも肉の部位の名前を付けるってどうなのって思う。
「でも、随分大きくて眼つきも悪いよね。何ガン飛ばしてんだこら。って感じでこっち睨んでるよ」叔父が笑いながらササミを呼ぶと、ササミは叔父の側に行き、首の辺りを撫でられ気持ち良さそうにじっと目をつむっている。かなり馴れているが、本当にニワトリか？
答えは、後日叔父からの連絡で判明した。
「ササミなんだけどな、あいつはニワトリじゃなくて軍鶏（シャモ）だってよ。最近、凶暴になってな、家の婆さんを襲うんだよ。それとチンチロリンの頭を突っついてな、五百円玉ぐらいのハゲができちまって」
それでチンチロリンの様子が変だったのだ。
「でな、元の飼い主に言って絞めてもらったんだ。明日、焼肉するから、お前も来んか？」どうやらササミはペットから家畜になってしまった様だ。
「新鮮な卵が食べられなくなっちゃったね」
「また貰ったから大丈夫だ。今度のは凄く大人しいぞ」
「で、名前は？」
「セセリだ」