ある日曜日の朝、僕の家に見慣れない女の子が訪ねて来た。目にいっぱい涙を溜め、少し声も震えていた。
「仔犬を探してるんですけど見ませんでしたか？」
この時がチコとの始めての出会いだった。今日引越しして来たばかりで、飼っていた子犬が居なくなったとの 事だった。僕と同じ小学校一年生だったが、とても礼儀正しい子で、明るく物怖じしない性格は、僕も今迄の友 達にない新鮮さを感じ、直ぐに友達になった。仔犬は暫く一緒に探し、無事見つける事が出来た。
次の日、僕のクラスに転校生として入って来た。ちっこいから『チコ』確かそんな理由から付けた呼び名だっ た。
チコには父親はいなく、いわゆる母子家庭と言うやつで、今の様に学童保育もなかった為、『かぎっ子』と 呼ばれる存在だった。
日曜日にチコの家に遊びに行くと、よく手作りのケーキを、お母さんがご馳走してくれた。今思うと、普段仕 事で疲れている分、日曜日位はゆっくりとしていたかったに違いないが、友達の少ない娘の為を思っての事だっ たのだろう。
「美香をお願いね」何時も口癖の様にこう言っていた。僕の家と近所と言う事もあって、毎日一緒に遊んだ。男 勝りのチコは、ママゴトなんか絶対しない。仮面ライダーごっこやチャンバラごっこが大好きだった。

つづく