第601話「カッコいい車」
隣りの家の孫である四歳児の健太が、今日も遊びに来ている。
「健太は、大きくなったら消防士になりたいのか?」祖父が訊くと、お気に入りのラジコンの消防車を
操作しながら健太が言った。
「うん、火を消して人を助けるんだ」
「そうか、人の役に立ちたいなんて、いい心掛けだな。健太は偉いな」
「うん、俺は偉いんだ」ちょと自慢気にいう健太。
「危ない仕事だからお金もたくさん貰えるから、カッコ良い車とかも買うし」
「何だお前、車が欲しいのか?」
「うん、カッコいい車」
「そうか、そのカッコいい車には俺も乗せてくれるのか?」
「いいよ、病院行く時に乗せてやるから」
「じゃ、早く免許を取れる様にならんとな」
「メンキョ?って何?」
「免許は運転免許の事だ。車を乗っていいよっていう許可証みたいなもんだ」
「ああ、運転免許か、お母さんも持ってるよ。あれって俺も取れるの?」
「そりゃ取れるさ」
「どうやって取るんだ?」
「自動車学校に行くんだ」
「俺も行きたい!」と興奮する健太。
「いや、お前はまだ行けないんだ。もっと大きくなってからだな」
「そっか、何でも大人になってからじゃないとダメなんだな。まだまだだ」とガッカリした様子の健太。
「そうだ、大人になってからだ。楽しみは後にとっておいた方がいい」と言って笑う祖父。
午後になり、僕は薬を貰いに行くという祖父と、おまけの健太を乗せて病院へ。
車が大きな通りに出ると、健太は目を輝かせながら指をさすと、大声で叫んだ。
「あっ!カッコいい!俺が大人になったら、あの車に爺ちゃんを乗せてやる」
それを聞いた祖父と僕が、顔を見合わせ、大笑いする。
「あれは、お前に乗せて貰うまでもないな。どの道、乗る事になる」祖父は装飾した金色の屋根に、黒塗りの
ボディーの車を見て、少し寂しそうに言った。