ある日のこと、五十代前半の男性と二十歳前後と思われる若者の二人連れが当社へやって来た。
「あの～ここで仕事は紹介して貰えるんでしょうか？」と年輩の男性が当社の社員Ａに聞いた。
「うちは、週刊求人という求人誌を発行している会社なんですけど、お仕事を探してらっしゃるんですか？」
「はい、息子の仕事を探してるんですが、何かいい仕事はありませんかね」どうやら親子連れの様である。
「今うちの求人誌を持って参りますので」と言ってＡは応接室の方へ案内した。
「どういった仕事を探しているんですか？」とのＡの問いに息子が答えた。
「カッコいい仕事です」
「お前、そんな事ばっかり言ってるから仕事が見つからないんだぞ。色気づきやがって」と言って父親は息子を睨みつけた。
「どうしてカッコいい仕事がしたいの？」Ａが聞いた。
「彼女に自慢したいんで」少し照れくさそうに彼は答えた。
「こいつ、最近彼女ができたらしく、こんな事ばっかり言ってるんです」と父親。
「君にとってカッコいい仕事ってどんな仕事なの？」
「う～ん・・・、パイロットとか、レーサーっすかね」
「君はなれると思う？」
「いや、絶対無理っすね」
「今聞いたのは、もっと現実的な事だよ、君ができる仕事の中でってこと」
「う～ん。これと言って無いっすね」

つづく