第720「シレン」
隣りの家の源造さんの孫で、4歳児の健太が遊びに来た。
お昼を食べた後で母が健太に言った。
「まだお腹入るかい?」
「物によるかな」最近はビックリするほどの速度で色々な言葉を覚える。そのせいか少し生意気になって来た。
「とうきびがあるんだけど、お口に合わないかしらね~」
「えっ!食べる食べる」
「家の畑で採ったばかりだから美味いぞ」と祖父。
「そっか!もぎたてか」
「そうそうもぎたて。だけど、とうきび食べたら、おやつのスイカは食べれんぞ」
「えっ?何で?」
「スイカは水物だし、とうきびは消化に悪いから腹こわしちまう」
「え~っ!どっちにしようかな~う~ん悩む~。俺は最近悩み事が多過ぎるんだよな~」
「健太、悩み事はな、神様が与えた試練なんだ」と祖父が笑う。
「シレン?」確かに四歳児には難しい言葉だ。
「そうだ、人は色々な試練を経験して成長するもんなんだ。その試練は神様が与えてるんだ」ともっともらし事を言う祖父。
「四歳児にそんな事言っても分かる訳ないだろう」と側で聞いていた僕が笑う。
「じゃ~さ、俺の事を神様はずっと見てるのか?ウンチの時も?」
「そうだ、全部見てる」
「ゲ~ッ!恥ずかし~」
「そして一つ悩みが解決したら、また一つ与えるんだ」
「え~っ!それって超うざいんですけど~」
「うざいけど、それが人生なんだ」と祖父が笑う。
「爺ちゃんも悩みあるか?」
「俺か?俺はもう悩む事もそうそうないな」
「ふ~ん、神様は爺ちゃんに何でシレンをくれないんだ?爺ちゃんは神様に嫌われたのか?」健太の言葉に祖父は悲し気に応えた。
「・・・あ~そうかも知れん」
「そうかもシレンだって」と笑う僕。
「ギャハハそうかもシレンだって」とわかっちゃいないだろうが、僕に続いて笑う健太。
「洒落で言ったんじゃないぞ、随分とヤンチャして来たから、神様に嫌われたのかも知れないって事だ」
その時、ゆで上がったとうきびの匂いにつられ、健太が台所へと走る。
「爺ちゃん、景気付けに一本どうだい!」健太がとうきびの入った皿を差し出し、それを手にする祖父。
「アチッ!アチチチチ」
「キャハハハ、ヤンチャしたからバチが当たった~」
「お前こそスイカ食えんぞ」
「う~ん悩む~」