第722「天変地異」
祖父の部屋の前を通ると、遠山の金さんの主題歌が聞こえて来た。
「爺ちゃんまた遠山の金さん見てるよ」と僕がリビングに居る父と母に言った。
「録画したアニメを毎日飽きもしないで観てる子供みたいだよね」と笑う母。
「昨日は鬼平犯科帳を見てたな」と父。
「この前見てたのは、死して屍拾うものなし、ってナレーションのやつ」と母。
「大江戸捜査網だろ」と父。
「だけどさ、最近は時代劇って全然入らなくなったね」
「今の若い奴らは観んだろう、何か懐かしくなって来たな、どれ俺も見てくるかな」と言って祖父の部屋へと向かう父。
「健太みたいに金さんが好きで爺ちゃんと一緒に見る子も居るけどね」
健太とは隣りの家の源造さんの孫の事で、日曜日によく我が家に遊びに来る。四歳児だが、家の祖父とは大の仲良しだ。
「健太は遠山の金さんの歌、全部歌えるから」と笑う僕。
「保育園でもよく歌うらしくてさ、何の歌だって先生に訊かれたそうだよ」
母とそんな話をしていると、祖父と父がドタドタとせわしく外へと出て言った。
玄関のドアが何度も開け閉めする音がするので、何事かと僕が様子を見に行く。
慌てた様子で植木鉢を玄関に取り込んでいる父。
「お前も手伝ってくれ」
「何、台風でも来るの?」
「天気予報で今晩から大雪になるって言ってたからよ」
「まだ9月前半じゃん」
「だから大変なんだって、こりゃ天変地異だな」と言いながら父は出て行った。
ドアが開き、祖父も植木鉢を手にしている。
「大変だぞ!大雪が降るぞ」
「・・・爺ちゃん、さっきビデオ見てなかった?あれっていつ録画した?」
「えっ?ビデオ?あれはそうだな・・・ああ!そっか、あの天予報はビデオか!あら、おい大変だ!」と言って祖父は外へ出るが、父は既に車を出した後だった。
「親父どこ行ったの?」
「ホームセンターに冬囲い用のムシロやら紐やらを買いに行ったんだけど・・・」
「まだ売ってないよね」
「そうだな、ちと早いかもな」