第727「大人気ない大人2」
祖父の言った事の意味がよく分からないらしく、健太が祖父に訊いた。
「白い布って?」
「死んだら白い布をかぶせるんだ。見た事ないか?」
「うん、ない」
「よし、じゃあ見せてやる」
「えっ?嫌だ!爺ちゃん死んだら嫌だ」と今にも泣き出しそうな健太。
「死んだふりするだけだから大丈夫だ。今日は葬式ごっこだ」と笑う祖父。何とも不謹慎な爺さんだ。
「お葬式ごっこして遊ぶのか?」と急に張り切る健太。
「ああ、俺の部屋から線香を持っ来てくれ、それと布団しいてくれ」と僕に言う祖父。
「そこまでやる?これから出掛けるんだけど」
「ちょっとだけ付き合え、面白いもんが見られるかも知れんぞ」
リビング横の客間に布団をしくと祖父が横になり、僕が顔に白い布をかぶせる。
「お前達は俺の両脇で・・・」とまで祖父は言うと、何かを察したのか急に黙り込んだ。
「あっ!これテレビで見た事ある。そっか~よし。じゃ俺も・・・うわ~ん!爺ちゃん死んじゃった~」子役顔負けの迫真の演技を見せる健太。
ちょうどその時、外出先から父が帰って来た。
白い布をかぶった祖父、泣き叫ぶ健太、そして頭の上では線香の煙がたなびく。
「えっ?」と父は小さな声を発するのと同時に、買い物袋をポトリと床に落とした。
「お、親父?」ちょっと考えりゃ分かるだろうと思う気持ちを抑えながら、僕は下を向いて腕で口元を塞ぐと、必死に笑いをこらえた。
それを見た父は僕が泣いていると思った様で、祖父の元へと駆け寄った。
「何だ?どうしたんだ?死んだのか?さっきまで元気だったのに・・・」え~マジか~これって、さすがにやばくないか?と僕が思った時だった。
「・・・うっぷっぷうう~」祖父が吹き出すのと同時に白い布が吹き飛んだ。
「な、何なんだ!」と驚く父に、僕は慌てて事の成り行きを説明した。
「普段からもっと年寄りを大切にせんとな、たかだか・・・」
「た、たがたがだと?」興奮のあまり、舌が回っていない。
「たかだかだ」と笑う祖父。
「俺の一番好きな物だぞ!それを全部食っちまって」
「何だよ原因は食いもんか、大人気ない」と僕が呆れる。
「そんなに美味しいなら俺も食べたいな」と健太。
「買って来たみたいだぞ」と祖父は父が床に落とした袋を指差すと、健太は袋を手に取り中を覗き込んだ。
「ああ~俺もこれ好き~」
健太は、鮭フレークの瓶を手に嬉しそうに叫んだ。