第723「マーちゃん77」
友達の息子である小学五年生のマーちゃんが熱心に料理本を見ていた。
「どうしたのこれ?随分と沢山あるけど」僕は山積みされた料理本を見て言った。
「隣りのおばさんに貰ったんですよ、これでレパートリーが増えそうです」
ここの家は父子家庭の為、家事全般をマーちゃんがやっている。
「この煮込みハンバーグは美味そうだな」
「作ってみたらどうです?」
「俺が作るの?」
「そうですよ、きっと奥さんも喜ぶと思いますよ」
「料理はな~苦手だな」
「じゃ、奥さんの作る物を美味しいって言ってます?」
「いや、あまり言ってない」
「作る側からすると、美味しいの一言って凄く嬉しいものなんですよ」
「そっか?」
「そうですよ、今度もまた美味しい物を作ろうって気になるもんです」
「そんなもんかな」
「そんなもんです。だから言わないと損ですよ。美味しい物を作ろうって気持ちになってもらった方が、食べる側は得じゃないですか」
「なるほどね~あいつは美味いって言うの?」
「お父さんは、僕の作る物は何だって美味しいって食べますよ。まあ、お父さんなりの作戦だという事は見え見えの時もありますけど」
「そっか、本当はご飯の支度は交代制だけど、それを逃れる為にマーちゃんのご機嫌を取ってるって事か」
「その通りです。お父さんみたいに毎回美味しいって言うんじゃなくて、時々でも言ってあげたら奥さんも喜ぶと思いますよ」
翌日の夕食、少ししょっぱかったけど、マーちゃんに言われた通り妻の料理を褒めてみた。
「これ美味しいね」
「えっ?本当?」と言って僕が美味しいと言った料理を笑顔で食べる妻だったが、
「・・・・しょっぱ!」妻の顔が一気に険しくなる。
「えっ?・・・」
「普段言わない様な事言うから変だと思ったら、酷いよね~そんな嫌味言うなんてさ」とブチ切れる妻。
僕は心の底で叫んだ。
「マーちゃんの嘘つき!」