一年前に結婚退職した女子社員が会社へやって来た。
見ると、毛布に包まった赤ちゃんを抱いていた。
仕事中の手を休め、女子社員が赤ちゃんを覗き込んで言った。
「あら～可愛いですね。柄がとても綺麗」
他の女子社員も同じ様な事を言っている。
「本当だ。柄が綺麗に揃ってますね。きっと女の子ですね。先が丸くなってますもん」
話しの内容が全く理解出来ない。
近くに居た山本も側に寄って見ている。
「こりゃ美人になりますね。将来が楽しみっすね」
「いやだな、まだ生まれてもいないのに」
生まれていない？ってどう言う事だ？今彼女が抱いているのは赤ちゃんじゃないのか？
訳が分からなかった。
羽賀も側に寄って見ている。
「おっ！随分大きいな。触っても良いか？」
「羽賀さん。手は綺麗なんでしょうね」女子社員の一人が言った。
「大丈夫だって」と言って羽賀は毛布の中にそっと手をいれて撫でている。
「スベスベだな」
「ホント、スベスベっすね。普通、ザラザラした部分ってありますよね。磨いたんですか？」
山本も手を入れて撫でている。
「馬鹿だな、磨いちゃダメなんだよ」と羽賀。
「そうっすよね」
「予定日は、いつなんですか？」女子社員が言った。
「九月十二日が予定日なの」
「今から楽しみですね」
スベスベ・ザラザラ・磨く・予定日？
皆が言った単語を僕は頭の中で並べてみたが、何の事か分からない。
あの毛布に包まってるのは赤ちゃんじゃないのか？
僕は恐る恐る皆の輪の中に入り込むと、彼女が大事そうに抱いている毛布の中身を覗き込んだ。
そこには、斑模様の巨大なタマゴがあった。
「良い柄ですよね」山本が微笑みながら僕に言った。
「タマゴ？これに赤ちゃんが入ってるのか？」僕の言葉に全員が目を丸くした。
「当たり前じゃないですか」
ここで目が覚めた。
何ともリアルな夢だった。
その年の秋に彼女は元気な女の子を出産した。