求人君

北海道【札幌・旭川・函館・苫小牧・釧路・帯広】のお仕事探しに求人君
最終更新日:2024年04月26日
最終更新日:2024年04月26日
TOP  > KonなんどうでShow!  > 第448話「律子さん53」

第448話「律子さん53」

電話に出ると、耳をつんざく様な大声で母が言った。
「大変よ!大変。お父さんがね、お父さんが」私は高齢の父の顔を咄嗟に浮かべると、心臓が早鐘の様に激しく打つ中、母にも負けないほどの大声で言った。
「どうしたの!落ち着いて、お父さんがどうしたの?」
「お父さんが元気なのよ」
母の言葉を聞いた瞬間、私の息が一瞬止まった。そして一拍置くと、顔が一気に熱くなり、目がつり上がっていくのが自分でもはっきりと分かった。
母のこの手の嘘に今まで何度ひっかかった事だろう。そう考えると、頭のてっぺんから一気に蒸気が噴き出す様な思いと同時に、とてつもない腹立たしさを感じながら、私は電話の電源を親指で力強く押した。
振り向くと、ご飯茶わんを持った主人が私の顔を見て固まっていた。
恐らく私の顔は、鬼の様な形相になっているのだろう。
「何考えてるんだか!」私は吐き捨てる様に言った。
まだ心臓がドキドキしていた。主人に話すと、笑っていた。その無責任さにも少し腹を立てながら、私は溜息まじりに言った。
「暇なんでしょう。どうせ大した用事も無いんだから」
「まあ、そういう時に冗談を言うんだよね。サトちゃんてさ」里子だからサトちゃん。主人は私の母をいつの日からかそう呼ぶようになった。
いつもは気にしないのだが、この日に限って何故か妙に癇に障った。
「サトちゃんって呼ぶの変じゃない?」
「家のお袋と比べたら、ずっと若いからさ、お母さんって呼ぶのに抵抗があるっていうか、ちょっと気の毒っていうか、それに本人も気に入ってる様だしさ、別に良いと思うんだけどな」
そして再び電話が鳴った。母だったら文句の一つでも言ってやろうと思い、電話に出た。やはり母だった。
「あっ、律子、今病院なんだけどね、お父さんが散歩途中に車に轢かれちゃって、でも安心して、どこも怪我が無いから。さっき電話した時は、私もびっくりしちゃって、変な言い方して御免ね。また私が悪ふざけしてると思ったんでしょ?」

エリア
カテゴリ
こだわり
雇用形態