第719「律子さん100」
母がやって来て言った。
「あんなもんは二度とゴメンだね。熱は出るし頭はガンガンするし、腕は痛くて動かないしで散々だったよ」コロナワクチンの事だ。
「意外だったよね、お母さんが体調崩すなんてさ、私はお父さんの方が心配だったよ、身体も弱いし」
「そうなんだよ、な~んか凄く損した気分。色々と心配したのに、逆にこっちが具合悪くなるなんてさ」
「お父さん自分でも覚悟してみたいでさ、明日ワクチンだからこれが今生の別れになるかも知れんって、わざわざ電話して来たんだよ」
「へ~っ、そうなの?私にはそんな素振り一つも見せなかったよ。でもね、意外と優しいところもあってさ、私がちょっと横になってたら、大袈裟にお粥なんか作ってくれたりしてね」
「良いとこあるじゃん」
「まあね、普段からそうだと良いんだけどね」
そんな会話をしていると主人が帰って来た。
「サトちゃんはもう大丈夫なの?」と主人が母に訊く。
「うん、心配かけてごめんなさいね」と母が笑う。
「大変だったね、二人とも体調壊すなんてさ、お義父さんも熱は下がった?」
「えっ?」と母と私が驚く。
「この前お義父さんから電話来て、いきなりお粥は米からか?ご飯からか?って」
「それで?」と私。
「ちゃんと米って応えたよ」
「そこちゃうわ!その後!」と声を荒げる私。
「ああ、その後、調子はどう?って訊いたらお父さんも38℃あるって、それで僕も心配になって色々訊いたら、俺はしょっちゅう熱出してるから慣れてるって・・・でも今思えば声にも張りが無くて、しんどそうだったかも」
「何でそれを私に言わなかったのよ!」と私が怒鳴る。
「えっ?何かさ、俺がサトちゃんを看病するんだ的なオーラーが電話から伝わって来たもんだから」
「お父さんは熱が出たら何日も続くんだからね」私が主人を怒鳴りつけてると、母は急いで帰って行った。
「サトちゃん心配で帰ったんだね。僕らも将来あんな夫婦になりたいね」
「なるか!」